LONDON COLUMNING

ロンドンから音楽事情を発信していきます。音楽以外もたまにはね。

【手記】To THE LonDon / Testsushi Nosaka

11月3日月曜日。パリからロンドンへ向かう列車内にて記す。ピッチフォークフェスティバルというモダンでアーバンなイベントに参加するためにロンドンからパリへ出掛けたのが木曜日。生憎の体調不良で取材以外はあまり動くことができなかった5日間だったが、11区にあるお気に入りのレコード屋だけにはちらりと顔を出した最終日。これまた生憎の雨。目当ての品も見つからず、そのまま北駅に向かうことに。店から出ると雨はまた一段と強くなっている。くそったれ、パリを発つ日は決まって雨だ。気分は良くない。その足で21時13分パリ発の列車に乗り込む。そのまま眠り込もうかと思ったのだが、そうだ、こないだとある音楽家から音源を送ってもらっていたので、じっくり聴いてみようかなんて軽い気持ちでファイルを探す。便利な時代になったもんだ。極東で作られたまだリリースすらされていない自主音源を普通に聴くことができるんだから。なんてことを思うと同時に、こんな感じでこの世界のあらゆる場所で色んな音楽が聴かれているのだから、この世に存在する音楽のうちの0.01%すら聴かずに人生を終えるのだろうと思ってぞっとする。ぞっとしても仕方ないので、我に返ってファイルを開く。ファイル名は「To THE LonDon」、もちろんこの「To」はロンドンに住んでいる自分に向けてのタイトルなのだが、勝手に解釈させてもらうと、今状況的にはロンドンに戻っている私こそが「To THE LonDon」なわけで、旅のBGMにはぴったりである。気分は悪くない。少し眠い。ファイルを覗くと、馴染みの曲(この音楽家のSoundCloudを好んでよく聴いている)から全く知らない曲までざっと25曲程度。もはや全曲集の様相を呈しており、一曲一曲丁寧に解説していきたいが、生憎そんな時間もないので、今日はその中から個人的に好みの曲を1曲だけ紹介したい。日付順に並べ替えたときに最新の日付(変更日)になっている「text perfect」という一曲。ストレートに形容するとアーバンでモダンなチューン。日本人にとっては間違いなくピッチフォークよりもアーバンでモダン。実は性格の悪そうな女の子の歌声にTestsushi Nosakaの声が重なる。いつまでも平行線を辿るようなこの掛け合いは曲が終わった瞬間に再生ボタンを押したくなるような中毒性がある。レコード化には不向きだろう。そしてこの曲のもう一つ特筆すべきことは先ほどもちらりと話した最新の日付というやつだ。「2014年10月25日6:17」。こんな曲を朝6時に作り終えているのだ。金曜日の夜に色町に繰り出した変態も、朝まで渋谷で踊り明かした家出少女もひとまず眠りにつく時間。新宿で終電を逃した吉祥寺在住の大学生が罪悪感に負けながらコンビニで肉まん一つを買って食べて、そのまま布団に転がり込んで一つ目の夢でも見ている時間。大都市東京が静寂に包まれている一瞬の隙間。そんな瞬間にこの名曲が完成しているのだ。データは嘘をつかない。この時間にこの曲が完成しているのだ。もしかしたらもっと前に完成していて名前を変えただけかもしれないけれど、どんな形であれ、最後に息を吹き込まれたのは「2014年10月25日6:17」なのだ。世界が一瞬だけ眠っている間にこっそり完成した「text perfect」。この素晴らしき静かな世界を真正面から肯定している曲。世界の夜明けに捧げられた曲。もし私がこの曲の権利を1億円で買い取ったなら、眠れずに朝を迎えた全ての女の子にこの曲を捧げたい。「こんな時間に会いたいなんて言われても、絶対会えないからこの曲でも聴いてじっとしといてくれよ」という具合で聴かせてやりたい。誇大妄想、勝手な論理、作り手の意図なんてガン無視して好き勝手散文乱れ書いた後はいつだって痛快極まりない。とりあえずロンドンに着くまで少し眠るとするか。気分は良くなったから。

 


Tetsushi Nosaka's profile - Hear the world’s sounds